トヨワクオリジナルコンテンツ
【学生フォーミュラ第6弾】最後まで諦めない!学生たちの熱き戦い【総力戦】
1年前、火花が怖くて震えていた学生たちがいた。
しかし今、彼らは全国の舞台に立っている。

これまでの物語で、我々は彼らが手にした「人間力」を見てきた。
どんな逆境にも負けない胆力。プロ顔負けの安全意識。仲間をまとめるリーダーシップ。
しかし、学生フォーミュラという戦場は、それらの武器を携えた彼らに、あまりにも非情な現実を突きつける。
これは、彼らが「ヒーロー」になる物語ではない。
これは、彼らが「本物のエンジニア」になった日の物語だ。
EVチーム、「正しさ」ゆえに
大会4日目。
6年ぶりの復活を遂げたEVチームは、静かな熱気に満ちていた。
「1年でここまで来たぞ」という誇りを胸に、彼らは実際にコースを走行する動的審査前最大の関門である、「車検」に臨む。
しかし、そこで待っていたのは想像を絶する「壁」だった。
「フレームから、ほんの数ミリ、パーツがはみ出している」
「バッテリーケースの絶縁テープは、本当にこの電圧と温度に耐えられるのか? 証明するデータはあるのか?」
審査員から放たれる指摘は、プロの現場そのもの。仲間が命を預けるマシンである以上、妥協は一切許されない。
「そんなところまで見られるのか…」
動かすことに必死で、車検対策が後手に回っていたことを、チームは痛感させられる。
パワートレイン(動力伝達装置)リーダーのSさんは、すぐさま修正に取り掛かる。
第5章で語られた彼の武器である「プロ顔負けの安全意識」
その高いプライドが、彼に一切の妥協を許さない。
なぜなら、「これくらいで大丈夫だろう」という甘えは、自らがただの「学生」に戻ってしまうことを意味するからだ。
だが、皮肉にもその「正しさ」が、彼らから最も大切なものを奪っていく。
「時間」だ。
今日走れなければ、明日からのメインイベントである耐久走行には進めない。彼らの1年間は、ここで終わるのだ。
走行審査の時間は刻一刻と迫る。
現場の空気は、Sさんの言葉を借りれば「ちょっとピリピリして」いた。
工具の音が、焦りの音に変わる。
メンバーの足音が、速くなる。

その時だった。
統括リーダーのHさんは苦渋の決断を下す。
「今の現状を考えると、実走行まで行くのがなかなか厳しい。来年度しっかり車検対策ができるように、対策を考えるメンバーに分けて動く」
誰よりもマシンを走行させたかったであろうリーダーが、誰よりも冷静に現実を受け止めていた。
走行という目の前の理想よりも、組織としての未来を選んだのだ。
チームで動くとはどういうことか。
リーダーとして全体を見ることの責任とは何か。
第5章で語られた彼の「人間力」が、最も苦しい形で試され、そして証明された瞬間だった。
結局、EVチームのマシン「T-MEC E 01」が、出走することはなかった。
統括リーダーのHさんは、全てを終えた後、静かにこう語った。
「すっごい悔しいですね。でも、結果だけじゃなくて過程もすごくて、チームメンバーの絆も深まりました。チームで動くってこういうことなんだなっていうのが分かったのは、自分の中で大きなものを得れました」

彼らは完走という「結果」を失った代わりに、何にも代えがたい「組織としての成長」を手に入れたのだ。
ICVチーム、全ては目標のために
一方、ICVチームもまた、苦闘の淵に立たされていた。
車検で指摘されたのは、吸気系パーツの「サージタンク(※)」。
形状は適合していたものの、その素材に対して想定外の指摘が入ったのだ。
長年採用してきたものであり、今まで指摘されたことはなかっただけに、「まさかここで」という衝撃が彼らを襲う。
※サージタンク:エンジンに送る空気を一時的に溜めておくタンク。空気の流れを安定させ、エンジン性能を向上させる
担当した学生が極度の緊張で泣きそうになっていたと、仲間は後に語っていた。
だが、彼らは諦めなかった。ライバルであり、仲間でもある他の大学にも協力を仰ぎ、素材の安全性を証明するための資料を揃え、粘り強く審査員と交渉を行う。
そして、ついに——。
「(大変なところを)無事通って、これから走行に入れます。なんとか車検を通せてよかったです」
苦難の末に掴んだ走行の権利。
先生も「今日3回目の再車検を受けて、やっと次に進めたので、みんな生き生きとしてます」と、安堵の表情を見せる。
数々のトラブルを乗り越えてきた「ポンコツ号」が、ついに全国の舞台を走る。

彼らの1年間。
様々な苦難や葛藤を抱えながらも、全てを乗り越えてきた1年間。
全てが報われる瞬間はすぐそこだった。
しかし、悪魔は細部に宿る。
走行セッションの合間、マシンが突如として沈黙した。
原因不明の電気系トラブル。
歓声に沸く他大学の喧騒が、まるで遠い世界のことのように聞こえる。
焦燥感に包まれる現場。
その光景の中で、ある言葉がよみがえる。
「完走することが、まず第一段階の壁だと思っています」
大会前、ICVリーダーのTさんが真っ直ぐな瞳で語っていた言葉だ。
あの時口にした「完走」という二文字が、今、絶望的なほど遠くに感じられた。
「絶望して、受かって、また絶望しての繰り返し」
原因究明を急ぐ学生たち。
その絶望を打ち破ったのは、EVチームで電気系統を担当するSさんだった。
自チームの走行が叶わなかった後、"すぐさま"ICVチームの応援に駆け付けていた彼は、その専門知識を総動員してトラブルシュートにあたる。
そして、ついに原因を特定した。
「ファイヤーウォール(※)を組み付ける時に、プラスの端子をフレームとファイヤーウォールの間に挟んで、そこが短絡(ショート)してる」
※ファイヤーウォール:エンジンルームと運転席を隔てる防火壁。万が一の火災時にドライバーを守る重要な安全装置
「おお、来た!」「さすが!」
チームの総力戦が生んだ奇跡。すぐに修理が行われ、マシンは最後の望みを託す男の元へと運ばれる。
チームのエースドライバー、Gさんだ。
仲間たちが「彼の腕は間違いないって思ってる」と全幅の信頼を寄せる男。彼は、仲間たちの想いを一身に背負い、静かに頷いてヘルメットを被り、マシンに乗り込んだ。
エンジンが、咆哮する準備をしている。
コースが、彼を待っている。
誰もが信じていた。今度こそ全てが、今、報われるのだと。
結果は、タイムアップ。
現実は非情であった。
一瞬にして真空のような静寂に包まれる。遠くで聞こえる他チームのエンジン音だけが、耳鳴りのように響く。
ヘルメットを被ったまま、エースドライバーは動かない。
その表情を、誰も見ることはできない。

ある学生は、涙ながらにその一瞬を振り返る。
「あと少し、時間が本当にあと1分、30秒あってくれたら走ることができて、明日まで繋げていたかもしれない」
このわずか30秒のために、彼らは一体、何百時間を費やしてきたのだろうか。
どれほど努力を積み上げても、届かないことがある。
エンジニアの道は、時にこれほどまでに残酷だ。。

結果を超えた真価 そこには「本物」の姿があった
トヨタ名古屋自動車大学校の学生たちが作成した2台のマシンは、どちらも時間という壁にぶつかった。
しかし、油にまみれ、最後まで仲間のために、そして未来のチームのために動き続けた彼らの姿は、紛れもなく「本物のエンジニア」そのものであった。
彼らが流した涙は、単なる敗北の涙ではなかった。
「これはもう僕たち自身の問題で、誰のとかじゃない。チーム全体でこういう事態も考えてやらなきゃいけなかったことができていなかった」
「先生たちの言葉を借りるなら、準備不足だった」
自分たちの未熟さを受け入れ、決して他責にしない。
その涙は、彼らがこの1年で手に入れた「人間力」の、最後の証明だったのかもしれない。
大会の熱狂と喧騒が去った後、彼らの胸に何が残ったのか。
悔しささえも未来への「糧」に変え、次の世代へとバトンを繋ごうとする。
次回、最終章。この悔し涙の先に、彼らは何を見つけたのか。未来へ託す、魂のメッセージに迫る。



