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【学生フォーミュラ最終弾】1年の成果と課題、後輩へ託すアドバイス【情熱をエールに変えて】

2026.01.30

祭りの後の静寂が、これほど耳に痛いとは思わなかった。

 

ICV(内燃機関車両)チーム、EV(電気自動車)チーム。

どちらのマシンも、ゴールラインを駆け抜けることはなかった。

 

残酷なまでの「時間の壁」。

 

だが、うつむく学生たちの背中を見て、誰が「敗者」と呼べるだろうか。

彼らがこの1年で手に入れたものは、完走の記録よりもはるかに重く、そして熱い。

 

シリーズ最終回。

 

これは、ゼロからモノづくりに挑み、泥臭くあがき続けた彼らが、その悔しさを一生モノの「」へと変えた、魂の記録だ。

 

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青春を捧げた、1年という期間

 

「いい思い出だった」なんて、綺麗な言葉で片付けたくない。

彼らが過ごした1年は、そんな生易しいものではなかったからだ。

 

オートクロス担当ドライバーのGさんが、その1年間を振り返る。

 

「1年間、チームで組んで活動してきました。授業なので。3年生の夏終わりぐらいから始まりました」

 

2024年の夏。44人のメンバーが集まり、2台のマシン製作プロジェクトが始まった。

 

1年前、彼らの多くは素人同然の学生だった。

普通科出身で、溶接もCADも触ったことがない。そんな彼らが、手探りで設計図を引き、金属を加工し、2台のマシンを組み上げた。

 

そして、その1年という時間の感覚が、プロジェクトの進行とともに大きく変わっていった。

 

「最初はまだ時間があるや、ぐらいでやってたんですけど、いざ大会前になると全然時間が足りなくて。もっと早くからコツコツ積み重ねていれば、もっといい車が仕上がったんじゃないかなと」

 

 

「まだ時間がある」という油断。それが、最後に大きな壁となって現れた。

大会直前には、遅れを取り戻すために朝5時まで学校に残る日もあった。

 

「大会前は朝5時までとか、学校に残って作業したりしてました。一緒に車を運んできたメンバーとかは、一緒に残ってずっと作業してくれて。先生も絶対に帰らないといけないんですけど、残ってくれて」

 

眠い目をこすりながら作業を続ける学生たち。そして、そんな彼らを見捨てず、同じように現場に残り続けた先生たち。

そこまでして辿り着いた結果が、「あと30秒足りない」という現実だった。

名古屋自動車大学校_学生フォーミュラ2

その絶望は計り知れない。

しかし、そのどん底で、彼らは信じられない言葉を口にする。

 

「走れなくて、スポンサーさんと先生たちに申し訳ないです。でも、最後の最後までトラブルまみれで、もう誰を責めるわけでもなく、みんなで『ありがとう』って、先生たちにもスポンサーさんにも言えるようにしたいです」

 

極限の悔しさの中だ。

誰かを責め、犯人探しを始めたとしても、誰も彼らを咎めなかっただろう。

 

だが、彼らが選んだのは「責任の追及」ではなく「感謝」だった。

共に朝日を見た仲間だから。共に絶望を味わった戦友だから。

互いのミスを許し合い、痛みを分かち合う。

 

彼らが築き上げた、この強固な「結束」こそが、なによりも尊い財産だったのだ。

 

 

「失敗」こそが、最強のエンジンになる

 

なぜ、時間が足りなくなったのか。

彼らの分析は、自分自身を切り刻むように鋭かった。

 

Gさんは、その根本原因をこう語る。

「リーダーがチームマネジメントをやってくれてるんですけど、そこがなかなかクリアできなくて、どんどん作業が後手に回ってしまって。結果、大会前に全然走れてないっていう状況になってしまいました」

 

チームマネジメント。

 

それは、技術的な課題以上に彼らを苦しめた。

計画の遅れは、貴重な資源である「検証の時間」を奪い去った。

 

ICVリーダーのTさんは、大会当日の出来事について冷静な分析をしていた。

 

「あまりテスト走行が繰り返しできていなかったので、いざここで走った時に今まで気づけていなかった課題がたくさん出てきてしまいました」

 

バッテリーの短絡。配線系のトラブル。

これらは単なる技術的なミスではない。

 

「スケジュールを管理し、テスト走行の時間を十分に確保する」

もし、チーム全体でこの壁を乗り越えることができていれば、本番前に潰せていたはずの課題だ。

 

本番の舞台で初めてトラブルが姿を現したこと自体が、組織としての敗北だった。

 

Gさんは、この痛いほどの経験を経て、「技術者として、どう働くべきか」という答えに辿り着く。

 

「しっかり事実を受け止めて、これからの人生に役に立てばいいなと思います。早め早めで動かないとこうなってしまうと、身に染みて実感しました」

 

社会に出れば、「納期」は絶対だ。

技術力があっても、時間を管理できなければプロとは呼べない。

 

「早めに動く」ことこそが、最大のリスク管理であり、マネジメントの本質なのだ。

 

もし、彼らが運良く完走し、なんとなく成功していたら、この真理に気づけただろうか?

 

「準備不足」という痛烈な自戒。

この痛みを知っている人間は、強い。

 

将来、彼らがエンジニアとして現場に立った時、この日の悔しさが必ず脳裏をよぎる。

「あの時の二の舞は演じない」と、誰よりも早く準備し、誰よりも深くリスクを想定するだろう。

 

この敗北は、彼らを一生支え続ける「糧」になったのだ。

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「サークル」と「授業」 環境の違いと、そこで見つけた強み

 

なぜ、走行テストの時間を十分に確保できていなかったのか。

その背景には、他大学との環境の違いがあった。

 

ICVサブリーダーのGさんがその違いを教えてくれた。

 

「他大学さんはサークルみたいな感じで学生フォーミュラをやることで、1年生からしっかりサスペンションの構造や、作成に向けた動き方だったりを学べます」

 

「僕らは本当に付け焼刃みたいな感じで、とりあえずサスペンションというものがあって、それがどういう風に動くのかを知識として知ってるだけです。そこに果たして本当に理想値を求めて行けてるのかって言われたら、多分答えはノーになってしまう」

 

1年生から数年かけて、自主的に知識とノウハウを蓄積していくサークル形式のチーム。

対して、授業の一環として1年間で完結させなければならないトヨタ名古屋自動車大学校のチーム。

公益社団法人 自動車技術会
公益社団法人 自動車技術会HPより引用

この違いは、確かに大きなハンディキャップだった。

 

しかし、彼らは環境の違いを言い訳にしなかった。

 

「僕たちの強みは、いざという時の対応力です。整備学校で整備を学んでいるだけあって、みんなある程度の腕はあるので、何かあった時も臨機応変に対応できます」

 

1年という制約の中で、彼らは『整備士のプライド』を武器に、最短距離で正解に辿り着こうと足掻いたのだ。

 

設計の理想値を追求する力。

現場で即座に問題を解決できる力。

 

どちらが優れているわけではない。

それぞれのチームに、それぞれの「強み」がある。

 

その違いを理解し、自分たちの強みを活かすことこそが、次の一歩への鍵なのだ。

 


 

コックピットの狭さが、心を近づけた

 

マシンの製作現場は、常に「エゴ」のぶつかり合いだった。

限られたスペースに、それぞれの理想を詰め込む。

 

サスペンション担当が「ここを通したい」と言えば、フレーム担当が「強度が落ちる」と跳ね返す。

 

「やっぱり、作ってる時はケンカしちゃうんですよね。この1台のマシン、スペースが狭いので、やっぱり色んな人が色んなところを付けたいですし。『なんでこれ付けたの?』『俺、ここ使うんだけど』みたいな(笑)」

 

本気だからこそ、ぶつかる。

本気だからこそ、譲れない。

名古屋自動車大学校_学生フォーミュラ3

妥協せず、本音で意見を戦わせ、それでも最後には一つの目的に向かって走り出す。

 

この1年間で彼らが身につけたのは、表面的な「仲の良さ」ではない。

 

互いの専門性を認め合い、魂を削り合って最適解を導き出す、まさにプロフェッショナルの「流儀」だ。

 


 

「俺たちの悔しさを越えていけ」 後輩へ託す、魂のエール

 

俺たちの悔し涙を、無駄にするな。

 

EVチーム統括リーダーのHさんが行っていたのは、単なる「引き継ぎ」ではない。

自分たちの失敗を、後輩たちの成功に変えるための「儀式」だった。

 

「口で言われただけだと『本当に?』となってしまうと思うんです。だから、車検の風景をチームのメンバーに動画で撮ってもらっています。どういう雰囲気で車検が進んでいくのか。やっぱり、準備が一番大切だっていうのをちゃんと伝えないとダメだなと。」

 

ピリピリした空気、審査員の冷徹な指摘、焦りで震える手。

恥も外聞も捨てて、そのすべてを記録に残す。

 

「俺たちと同じ失敗はするな。もっと先へ行け」

 

それは、油にまみれ、最前線で戦い抜いた先輩たちが、次の世代へ託す最大限の愛情であり、強烈なエールだ。

 

自分たちが燃やし尽くした情熱を、後輩たちが走るための燃料へと変えた瞬間だった。

 


 

学生フォーミュラがくれた本当の強さ

(C) 2025 自動車技術会
(C) 2025 自動車技術会

1年前、彼らは何者でもなかった。

 

「車が好きだから」「就職のために」「授業の一環だから」

動機もバラバラで、熱量の差に悩み、孤独を感じるリーダーもいた。

 

作りかけのマシンを前にして、どう動けばいいのかさえ分からず、火花に怯えていた学生たちもいた。

どうしても譲れない部分があり、意見をぶつけ合うこともあった。

 

かつての彼らは、技術以前に自分自身の「弱さ」と戦っていた。

 

 

学生フォーミュラという現場は、彼らをただの「学生」のままでいさせてはくれない。

 

逃げ場のない納期、シビアな検査の数々、そして、それらを乗り越えるために流した、数えきれないほどの汗と仲間の涙。

その全てが、バラバラだった彼らの心を、一つの「チーム」へとまとめ上げていく。

 

今、彼らの眼差しは、歴戦のエンジニアのそれになっている。

 

「何となく」参加していたメンバーも、最後には自ら考え、動き、戦った。

 

彼らが作ったのは、車だけではない。

「何があっても正面から立ち向かう、強い自分」を作り上げたのだ。

 


 

未来の挑戦者たちへ

 

ここには「本気」になれる場所がある。

 

努力が報われるとは限らない。

しかし、努力の末に得たものは必ず人生の財産になる。

 

失敗を恐れず、挑み続けてほしい。

 

未来の進路に迷う若者たちへ

 

もし、退屈な毎日に飽き飽きしているなら。

 

心の底から熱くなれる「何か」を探しているなら、ここを目指せばいい。

 

油と汗にまみれ、仲間と本気でぶつかり合い、時には悔し涙を流し、それでも最後には最高の笑顔で「ありがとう」と言い合える。そんな灼熱の青春が、ここにはある。

 

そして、日本のものづくりを見守る大人たちへ

 

どうか、彼らのことを覚えておいてほしい。

「最近の若者は」なんて言葉は、ここでは通用しない。

 

リスクを恐れず、前例のない課題に挑み、泥臭くあがき続けた。

 

彼らのような若者が、数年後、私たちが乗るクルマを、そして日本の未来を作っていくのだ。

 


 

「学生フォーミュラ」

 

この舞台の意味を、あなたはもう知っているはずだ。

 

それは、ただ学生が車をつくる場所ではない。

それは、情熱をエールに変えて、未来を切り拓く。

 

「本物の人間」をつくる場所である。

 


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