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学生フォーミュラ

【サポーター密着】みんなで支える"車と人"の成長

2025.12.11

突然だが、学生たちが完成させたマシンには、どれだけの人の想いが込められているか想像できるだろうか。

学生フォーミュラという壮大なプロジェクトは、決して学生たちの力だけで成り立つものではない。

その裏には、彼らの挑戦を信じ、熱意に寄り添い、時に厳しく、そして温かく成長を見守る「サポーター」たちの存在がある。

これから語るのは、2台のマシンと、それを取り巻く人々の「絆」の物語だ。


「教育者」であり、共に油にまみれる「同志」

 

学生たちにとって、最も身近なサポーターは、日々の活動を共にする先生たちだ。

彼らは単に教室で知識を教えるだけの存在ではない。放課後、そして休日も、ツナギを着て学生たちと同じ目線でマシンと向き合う。

学生フォーミュラ

大会直前、作業の遅れを取り戻すため、学生たちは連日遅くまで学校に残っていた。そこには、当然のように先生たちの姿もあった。

「大会前は朝5時までとか、学校に残って作業したりしてました。先生も絶対に帰らないといけないんですけど、残ってくれて」

 

「頑張れ」と口で言うのは簡単だ。しかし、先生たちは行動で示す。

深夜まで学生と共に現場に立ち続ける姿。それは、技術指導という枠を超えた、「チームの一員」としての姿だった。

ICVリーダーのT.さんや、フレーム担当のW.さんは、元々は普通科高校の出身だ。

入学当初は「グラインダーの火花が怖くてビビりながら作業していた」と語る彼らが、今では自信を持って溶接を行い、複雑な設計図と格闘している。

その成長の陰には、失敗しても「自分でやり遂げられる」ように支え続け、プロと同じ目線で対等に向き合い続けた先生たちの存在があった。

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「モノ」と「カネ」 そこに込められた、企業からの"挑戦状"

 

学生フォーミュラには、トヨタ自動車をはじめとする多くの企業が協賛している。数百社に及ぶ支援企業は、それぞれ異なる形で学生たちを支えている。

そのサポートの形は、一つではない。

ある企業は、自社の製品や技術を提供する。ICVチームの心臓部であるエンジンは、学校と長年の繋がりを持つヤマハ発動機から提供されたものだ。レギュレーション上限の排気量を誇るこのエンジンは、彼らのマシンの戦闘力を大きく引き上げている。

またある企業は、資金のみを提供する。一見、それはドライな関係に見えるかもしれない。しかし、その背景には「意欲と技術レベルの高い学生たちに、自社の名前を知ってほしい」という、次世代への熱い期待と投資がある。学生フォーミュラに参加する学生たちは、自ら課題を見つけ、解決する力を持っている。企業にとって彼らは、喉から手が出るほど欲しい「未来のエンジニア候補」なのだ。

学生フォーミュラ

そして、こうした支援は、常に受け身で得られるものばかりではない。時には、学生たち自身の「行動力」が求められる。

ICVチームが軽量化のためにアルミ部品の精密加工を必要とした際、学生たちはただ待つのではなかった。

 

「仲のいい大学さんのつながりで、レーザー加工をやっている会社を紹介していただき、自分たちでアポイントを取ってお願いしに行きました」

 

企業の門を自ら叩き、頭を下げ、協力を取り付ける。そのプロセスは、技術以上に貴重な社会経験となったはずだ。

さらに、企業の支援は、学生たちの「考える力」を直接的に育むことにも繋がる。

EVチームが前例のない新技術「CAN FD」の壁に直面した時、最大の助けとなったのは、現役技術者たちとの週に一度のオンライン会議だった。統括リーダーのHさんは、そのサポートの本質をこう語る。

 

「直接的な答えをいただくのではなく、『こういう事例もあるよ』といった形で間接的にヒントをいただき、それを元に自分たちで考えるというプロセスで解決していきました」

 

答えを教えるのではなく、考え方を教える。

部品、資金、そして知恵。様々な形で行われる企業の支援は、目先の勝利のためだけではない。学生たちが未来のエンジニアとして、社会で力強く活躍するための「人間力」を育むための、長期的な投資なのである。


ライバルであり、仲間だ

 

学生フォーミュラの世界には、他の競技にはない独特の文化がある。それは、ライバル校同士が情報を交換し、時には助け合うという文化だ。

T先生も、「単なるライバルというよりは、お互いに情報交換をしながら高め合っていく関係性が強いです」と、その特殊性を語る。この文化は、学生たちの間にも深く浸透している。

 

「学生フォーミュラは、自分たちの大学だけで開発するのではなく、他大学とメールなどで情報交換をしながら進めることも多いです」

 

その関係は、情報交換だけに留まらない。時には、物理的な助け合いにまで発展する。

 

「部品が壊れてしまった際に、お互いに貸し借りすることもあります」

 

自分たちのマシンの弱点を相談し、時には貴重なパーツを貸し借りする。

一見、勝負の世界ではありえない光景に見えるかもしれない。だが、彼らは誰もが「良い車を作りたい」「完走したい」という共通の想いを持っている。

この光景は、本大会が単なる順位争いではなく、「日本のものづくり全体の未来を担う仲間を育てる場」であることを、再認識させてくれる。


バトンを繋ぐ者

 

大会には、かつて同じようにマシン製作に青春を捧げたOB(卒業生)たちの姿もあった。彼らは今、先輩として、あるいはスポンサー企業の一員として、後輩たちの挑戦を見守っている。

学生フォーミュラ経験者であり、スポンサー企業であるネッツトヨタ中部の一員でもあるIさんは、後輩たちの奮闘する姿に、社会で役立つ力の根源を見る。

学生フォーミュラ

ネッツトヨタ中部で現在技術トレーナーを務めるIさん

「授業だと、先生に言われて何かをやるのが普通ですが、この子たちは車を作るところから自分たちで考えて、トラブルが起きたとしても『期限に間に合わせなきゃ』という意識で、誰かの指示ではなく自分たちで動いてやっています。そういう経験は社会に出てから役に立つんだろうな、と思います」

 

一方、その想いは後輩たちにも確かに届いている。ある学生は、少し緊張した面持ちで、しかし真っ直ぐな目でこう語った。

「やっぱり、いつも助けてもらっている方々なので緊張もしますし、先輩たちには、走っている姿を見せることが恩返しになると思っています」

 

先輩たちが築き上げた歴史とデータというバトンを受け取った後輩たち。

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そして、その後輩たちが自分たちの経験を糧に成長していく姿を見守る先輩たち。

この美しい循環こそが、チームの伝統を未来へと繋いでいく。


ピットとスタンドを繋ぐアツい眼差し

 

先生、企業、OB、そしてライバル校。これまで見てきたように、学生たちの挑戦は、多くの専門的なサポートに支えられている。

しかし、サポーターはそれだけではない。ピットで戦う彼らに、スタンドから送られる無数の温かい眼差しもまた、彼らを支える大きな力となっているのだ。

それは、会場に駆け付けた友人や、遠くから声援を送る家族たちであり、そして純粋にものづくりを愛する一般の観客たちでもある。

取材中、ある学生が「同級生の親が見に来ると聞いています」と、少し照れくさそうに教えてくれた。自分たちの挑戦が、決して自分たちだけで成り立っているわけではないことを、彼らは知っている。

そして、その輪は決して閉じたものではない。

ある学生は、この大会に懸ける想いを、溢れるような感謝の言葉と共にこう語ってくれた。

 

「先輩たちには今までの恩返しをしたいですし、スポンサーの皆様に支援してもらって僕たちが今走れるっていうことにも感謝ですし、先生たちにも全面協力してもらっていて、その全てに感謝の気持ちを伝えるのが、この大会のゴールだと思っています」

 


マシンに注がれる一つひとつの視線、送られる一つひとつの声援。そのすべてが彼らの力となり、会場の熱気を生み出し、学生たちの背中を力強く押しているのだ。

もし、あなたがこの記事を読んで少しでも心を動かされたなら、ぜひ次の機会に会場へ足を運んでみてほしい。

未来のエンジニアたちが繰り広げる、むき出しの情熱とドラマ。

その物語をここまで一緒に見届けてきたあなたは、紛れもないサポーターの一員なのだから

次回は、この1年間の挑戦を通じて、学生たちが技術者として、そして一人の人間として、どのように成長を遂げたのか。彼らの言葉から「人間力の成長」に迫る。

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