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常識破りの「超電導×水素エンジン」 開発2年間の軌跡
構想を発表してから2年半。ついに「超電導×水素エンジン」という未知のクルマが現実のものとなった。
11月15日、2025年のスーパー耐久シリーズ最終戦が行われた富士スピードウェイ(静岡県小山町)。液体水素を燃料とするGRカローラ(液体水素カローラ)がエンジン音を轟かせ、報道陣の前を駆け抜けた。
外見では判別しづらいが、過去、レースに参戦してきたクルマとはまったくの別物。-253℃という液体水素の極低温下で電気抵抗が0になる「超電導」を実現したクルマだ。
電気抵抗が下がれば、小さな電流で、同じ出力が得られる。ゆえに、部品を小型化できる。燃料をくみ上げるポンプのモーターをタンクの中に収納し、開発当初150Lだったタンク容量を300Lへ大幅にアップさせた。
京都大学 大学院の中村武恒 特定教授によると「超電導モーターは世界的にいろんなところが研究開発しているんですけど、実用化はまだ1つも例がない」。
振動が絶えないクルマで、しかも、激しい入力が加わるレースでの実用化は「非常識にもほどがあるぐらいの使い方」(中村教授)だという。
これまで、数々の不可能に挑み続けてきた開発陣も、予測しえなかった数々の壁に直面。ギリギリまで試行錯誤を続け、お披露目を1週間後に控えたサーキットでの初走行の日も、「本当に不安です。本当に何が起きるか…」(液体水素システム開発担当 山本亮介主幹)と緊張の面持ちだった。
そんな開発陣の不安をよそに、報道陣へ危なげないデモ走行を披露した液体水素カローラ。そうなると実戦投入の予定が気になってくる。
気持ちがはやる富川悠太に「24時間(レース)と思っていいですか?」と聞かれた伊東直昭主査(水素エンジンプロジェクト統括)。苦笑いしつつも「頑張りたいと思います」と応じた。
2021年に世界で初めて水素エンジン車でレースに出たときも、2023年に燃料を気体から液体の水素に変更したときも、デビュー戦は富士24時間レースだった。
来年はどんなドラマが生まれるのか――。既に半年先を見据え、開発が進められている。



