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"Toyota is family." そんな言葉が聞こえる、トヨタ社員も知らない?グローバルイベントとは

2025.12.25

“Toyota is family.”

 

アメリカ・インディアナ州の生産拠点 TMMI(Toyota Motor Manufacturing, Indiana, Inc.)で働くブレノン・ベントンは笑顔でそう語った。

彼がこの言葉を口にしたのは、2025年11月18~19日に開催された「第36回 トヨタグローバルQCサークルコンベンション」でのこと。世界6地域・64事業体から64のサークル、約300名が日本に集い、2日間にわたりQCサークル活動の成果と学びを分かち合うグローバルな大会だ。

 

2日間のダイジェスト動画(3分16秒)

今回トヨタイムズは、TMMIを代表して参加したチーム「Forklift Certified」 に密着。彼らを通じて、2日間のコンベンションや参加者のようす、トヨタQCサークル活動の意義をお届けする。

今回密着したTMMIのチーム「Forklift Certified」

世界各地から最優秀QCサークルが集結

トヨタグローバルQCサークルコンベンションは、各地域の事業体を代表するQCサークルが一堂に会し、改善を通じた人材育成事例を発表し合い交流を深める場。

 

代表サークルのサークルリーダーには「アンバサダー」の称号が授与され、帰国後1年間、その地域のQCサークル活動をリードする役割を担う。

開会式の配席表。世界各地の事業体の名前がたくさん並んでいた。

QC(Quality Control=品質管理)サークルとは、職場メンバー5~7名でサークルをつくり、自分たちの現場の問題を見つけ、話し合いながら改善していく小グループ活動のこと。人材育成や明るい職場づくりを目的として、製造業を中心に世界中さまざまな業種で取り入れられている。

なお、トヨタグローバルQCサークルコンベンションは世界一を決める大会ではない。各事業体で最優秀に選ばれたチームが集い交流し、経験や気づき・学びを共有し持ち帰ることで、各職場を活性化させることが目的だ。人材育成と草の根交流の場として位置づけられている。

今回密着したTMMIのQCサークル「Forklift Certified」は、ボデー部品構内物流部(East Body Weld Internal Logistics )で働く仲間たち。来日したのはサークルメンバー4人と、QC工場事務局の1人。

サークルリーダー ブレノン・ベントン(Brennon Benton, Circle Leader)

入社7年目。QCサークルの牽引や社内物流改善を担当。「大会で優勝して日本行きが決まったとき、すぐに母や妻に電話しました。みんな驚いていましたし、とても喜んでくれました」と教えてくれた。

テーマリーダー スペンサー・セクストン(Spencer Sexton, Theme Leader)

入社3年半。テーマリーダーとしてプロジェクトを推進。「日本へ来ることは世界を見る素晴らしい機会であり、今後のキャリアにもプラスになる」と話す。

ゲートキーパー スコット・メリック(Scott Merrick, Gate Keeper)

コロナ禍を機に建設業界から転職して4年半。スケジュール管理を担当。「死ぬまでにやりたいことリストに書いていたほど、ずっと日本に来たかったので嬉しい。妻と娘は羨ましがりながらも応援してくれています」と教えてくれた。

タイムキーパー ディラン・メレディス(Dylan Meredith, Time Keeper)

入社1年半の若手メンバーでタイムキーパーを担当。「祖母が”これがきっかけで、いろんなチャンスが広がるよ” と言ってくれました」と教えてくれた。

TMMIトレーナー兼QC工場事務局 マーク・ペレリート (Mark Pellerito, TMMI Trainer & TMMI QC Secretariat)

TMMI在籍23年のキャリアを持つベテラン。QCサークル活動のアドバイスやサポートをするサークルトレーナーとして教育も実施、TMMI工場の事務局を兼務。

マーク以外は日本に来るのも初めて。街の清潔さ、人々の礼儀正しさ、食べ物の違い、すべてが新鮮なカルチャーショックだとも話してくれた。

1日目:トヨタの歴史にふれる博物館ツアー

初日、参加者はトヨタ本社本館ホールで開会式とオリエンテーションを受けたのち、トヨタ産業技術記念館とトヨタ博物館を巡る「トヨタ歴史ツアー」へ。

 

トヨタ産業技術記念館では、トヨタの原点である、はた織り機の実演や、織機メーカーからはじまり世界的な自動車メーカーへと成長していった軌跡、G型自動織機の実演などを見学。トヨタ博物館では、世界のクルマの進化と文化を堪能。

 

「トヨタが織機から始まり、今ではスーパーカーや世界最大級の自動車メーカーになった。その進化を見るのは本当にすごいことでした」(スペンサー)

 

「企画展*でGT-Rを見られて嬉しかったです。映画『ワイルド・スピード』でブライアン・オコナーがいつも乗っていたのが印象的です」(ディラン)

*企画展では「What’s JDM?-世界が熱中する’80-’90年代の日本車-」と題し、15台の日本車が特別展示されていた。

 

「工場のチームメンバーと一緒にこの歴史を体験できたこと。それが一番印象に残りました」(マーク)

 

トヨタ博物館のショップでは、上司へのお土産に、娘や孫へのお土産に、自分用にと、彼らの部署でも使われているフォークリフトのミニカーを全員が購入した。自分たちの仕事を仲間や家族にも伝えたい。そんな思いが、お土産選びから垣間見られた瞬間だった。

 

TMMIでは、週1回QCサークル活動を実施しており、データを取り、特性要因図(フィッシュボーン)などを使い、原因を深掘りしながら3~4カ月かけて対策していく。

ブレノン

 

問題を分解できること、そして全員の意見を取り入れられることがQCサークル活動の魅力です。

例えば、1人だと1〜2個しかアイデアが出なくても、チームで協力すればそれぞれ1〜2個ずつ意見が出て、特性要因図などで情報を見える化できます。トヨタのQCサークル活動では、様々なスキルをチームメンバーに示すことができます。リーダーシップを発揮できるところも私は好きです。

 

スペンサー

 

ベテランと新人両方の意見が得られるのも良い点です。ベテランは慣れで同じことを繰り返しがちですが、新人は新しい視点で提案してくれるので、どちらの意見も役立ちます。

ベテランと新人が一緒になって考えることで、思いもよらないアイデアが生まれる。大事なことは、メンバーに敬意を示し、互いに尊重し合うこと。そうすれば、すべてがスムーズに進むんです。

QCサークルを通じて人が育ち、リーダーが育つ。TMMIの現場でもそれが根付いていることがわかる。

 

2日目:世界と学び合う、元町工場での発表会

2日目は、豊田市近郊の7工場に分かれて、午前中に「QC事例発表会」、午後からは「現場訪問・改善交流会」を開催。事前にどの現場を訪問したいかアンケートをとり、それをもとに会場が振り分けられていた。

 

TMMIは全10事業体のQCサークルが集まる、元町工場での参加。

元町工場の参加事業体QCサークルのみなさん
 

TMMIのテーマは、「部品キットを運ぶ際に、部品が落下して破棄になってしまう問題の解決」だ。

 

なぜ?なぜ?を繰り返し、真因を追及すると「部品を固定するための抑えが不適切」ということが判明。

 

仕入れ先の仕組みからヒントを得て、部品固定のゲートを試作。現場でできる小さな改善を積み重ね、部品落下を97%削減したプロセスを紹介。

 

ゲートの寸法が16インチ(約41センチ)小さかったために部品が落下してしまい、ゲートのサイズを修正したことや、今後の標準化・横展*予定も共有した。

*別部署への展開のこと。英語でもYOKOTENと発音されていた

 

そのほか、アルゼンチンのTASAは、車両の最終塗装工程におけるライン停止頻発問題の改善について発表。アルゼンチンの外気温や湿度が設備の基準を超えてしまっているなか、どう解決したかを発表。

 

TMC車体製造技術部からは、休日作業が必須だったメインボデー搬送機の改造作業を、工程の見直しと複数のデジタルツールを駆使した改善事例を発表。その結果、休日作業日数を1プロジェクトあたり18日から1日へあたり低減させたというから驚きだ。

 

TMMIのブレノンとスペンサーも「これが一番印象に残った」と教えてくれた。

ブレノン

 

他のチームが問題をどう分解し、現場でアイデアを形にしていくのかを見るのはとても面白かったです。私たちと似ているところも多いですが、皆さんの分析の緻密さに驚かされました。

午後からの現場訪問では、元町工場の工程とボデー整備課を巡るコースに参加した。物流に関する困りごと解決に関する説明もあり、似た課題を有するTMMIチームは熱心に聞き、質問をしていた。

 

スペンサー

 

自分たちの工場も大きいと思っていましたが、ここは規模も能力も圧倒的でした。工場の清潔さや整理整頓も素晴らしいです。

歴史ある元町工場が、技術の進化に合わせてアップデートされていることも強く印象に残ったという。

TQM推進部が語る、グローバルQCサークルの意義

今回のコンベンションを企画・運営したのは、トヨタ自動車TQM推進部。部長の小林淳一はその意義をこう語る。

TQM推進部部長 小林淳一

 

QCサークルの一番の目的は、人材育成です。改善そのものも大事ですが、それ以上に、仲間の困り事を楽にしてあげたいという気持ちから改善が生まれ、そのプロセスを通じてメンバーやリーダーが成長していく。

QCサークルコンベンションも、どの改善が一番かを競う場ではなく、相互研鑽の場だと考えています。

今年で36回を迎えたトヨタグローバルQCサークルコンベンションだが、昨年は開催されていない。そこには、足場固めの一年として一度立ち止まり、新たな方向性を見出したいという思いがあった。

小林淳一

 

以前は、本社の事務本館ホールにメンバー全員が集まって、ブースを区切って同時に発表する形でした。発表主体で現場感が薄い印象があったんです。

また、日本が主体で、そこに海外チームが参加するという構図もあったため、今回は日本も一事業体として位置づけ、6事業体として海外も日本も同じ目線で交流できるようにしました。

2日目を7つの分散会場にし、各現場に協力をお願いしたことも新たな挑戦だった。

小林淳一

私たちTQM推進部は後方支援役にまわり、現場の方が主役になっていただけるようお願いしました。

発表会や現場交流以外にも、元町厚生センターの前庭には、この日のために元町品質管理部やレストアチームがLC500と1970セリカ LB 1600GTを展示。室内にはレクサス LFAが置かれ、休憩時間にはエンジンをかけるなど、各工場でそれぞれのおもてなしがなされた。

 

TQM推進部の長嶋 淳は、「イベントをすることが目的ではない」と続ける。

TQM推進部 長嶋 淳

 

大切なのは、この交流で得た学び・気づきを、各地域に戻ってからもどれだけ継続し、QCサークル活動やチームワークの向上につなげていくか。

数年後に訪問したとき、「あのとき日本で学んだことをきっかけに、こんな活動が続いている」と言ってもらえることが、私たちのやりがいです。

過去にはQCサークル活動や創意くふう提案が低迷したことで、職場力や課題解決力が低下した経験もあるという。その経験から、小林は「活動を続けることの大切さ」を何度も強調した。

Toyota is family. 世界の仲間が教えてくれたこと

閉会式では、各事業体から2日間の感想共有があった。

南アフリカTSAMからは「1日目の開会式で、宮本本部長が‟モノづくりは人づくり、QCサークル活動は私たちのDNAだ”と言っていたことが印象的だった」とコメント。

 

その後、元町会場のメンバーで集合写真を撮り、バスへ乗り込み懇親会へ移動。トヨタイムズの密着はここまでとなった。

 

取材中、TMMIメンバーに「あなたにとってトヨタとは?」と尋ねてみた。

マーク

 

私にとってトヨタとは何か?それは一言では言い表せません。トヨタは私と家族に素晴らしい人生を与えてくれました。

トヨタ車に乗ることができるだけでなく、毎日仕事に行き、めんどう見*の教えなどを実践することができます。私はインストラクターとして、その教えを他の人に伝えることができ、彼らがそれを受け継いでくれることを願っています。

*世界中のトヨタでMendomiと言われている用語で、従業員が相互に家族のように大切にすること

 

スコット

 

トヨタが大好きで、ずっと昔からファンでした。以前は建設業で30年間働いていましたが、コロナでそれが終わり、トヨタに来ました。

私にとっては大きな変化でしたが、トヨタに来て、その哲学を学び、個人、社員、チームメンバーとしても成長を大切にしてくれると感じました。とても大きな意味がありましたし、だからこそトヨタで働くのが大好きです。

ブレノンとスペンサーは顔を見合わせて同じ答えを返してくれた。

スペンサー

 

トヨタは第二の家族のような存在です。入社してからずっと会社に支えられてきました。精神的にも経済的にもサポートしてくれるプログラムがたくさんあります。

毎日仕事に行くのが楽しみですし、安定した職場、素晴らしいチームメンバーがいて、とても満足しています。

 

ブレノン

 

よく、「職場の人とは友達になれない」と言われますが、私はそうは思いません。スペンサーが入社してすぐに仲良くなり、その週末には遊びに行きました。そして今、こうして日本に一緒に来て楽しい時間を過ごしています。

高校卒業後すぐに入社した人も多く、日本文化の雰囲気に慣れていない人もいますが、みんなが家族のように接してくれます。

トヨタのおかげで家族のための家も建てられました。トヨタは私や家族にたくさんのものを与えてくれました。多くの機会を与えてくれたことに感謝しています。これからも共に成長していきたいです。

2日間を通して、世界中のトヨタで仲間同士を思いやり、同じ思いを共有しながら、日々の仕事と真剣に向き合っていることが伝わってきた。

草の根活動でまいた種は、じっくりと時間をかけて、5年後10年後にしっかりと根を張り、各国ならではの立派な花を咲かせてくれるだろう。

 

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