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「モビリティを"Hack"せよ」 ウーブンシティ・チャレンジ始まる
8月25日、ウーブン・シティのHPに「『Toyota Woven City Challenge ― Hack the Mobility ―』ページを公開」というニュースが掲載された。
「Toyota Woven City Challenge ― Hack the Mobility ―」の特設ページ 内容を見てみると、「一緒に未来を発明する仲間を募集」、「概ね創業15年以内」、「Woven City各種施設とサービス利用権」といった言葉が並ぶ。
「ウーブン・シティに備わる、さまざまなアセットを使い尽くしてほしい」。そんな想いで始まった、スタートアップを中心とする新たな発明家たちの募集。担当者に話を聞いた。
ウーブン・シティ3つのメリット
この連載の初回でも紹介したが、ウーブン・シティでは、実証実験に取り組む企業や個人の発明家をインベンターズと呼ぶ。
1月のCESで最初のインベンターズ5社を発表。8月にはトヨタやウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)、トヨタグループのほか、インターステラテクノロジズと共立製薬が加入。9月1日時点で19社の参画が決まっている。
「Toyota Woven City Challenge」(以下、「プログラム」)では、この19社以外のインベンターズとして、よりスタートアップマインドの強い企業や組織、個人を募集する。選考は来年の春ごろまで。採択されれば、ウーブン・シティに集まる情報や施設、トヨタやWbyTの知見を活用して実証実験を行うことができる(最長18カ月)。
企業や自治体が主体となり、スタートアップを支援する取り組みには、一般的に「アクセラレータープログラム」と言われるものがある。こうしたプログラムと今回の「プログラム」の大きな違いは、採択された後に活用できるウーブン・シティの存在だ。
「プログラム」の企画内容をリードするウーブン・シティのコミュニティマネージャー・田中大裕さんが、「場所」「住民」「トヨタ」の3つの観点で説明してくれた。
田中さん
2022年、WbyTに入社した田中さん。前職でもスタートアップを支援する仕事をしていたこともあり、悩みや困りごとにも精通している。ウーブン・シティの取り組みは「新しすぎて、私たち自身でも手探り」。だからこそスタートアップとは「対等な関係が一番いい」という。 (公共の場所で)実証実験をやろうと思ったら近隣の住民との調整にも時間がかかることが多いですが、ウーブン・シティではその時間も比較的短くできます。
住民がいるということも大きい。(実生活から)切り離された場所で実験をしてみても、実際に使うかどうかわかりませんというパターンは多いです。実生活を送る住民がいて、使ってもらえるのはすごいところ。
3つ目はトヨタとのコラボレーション。
スタートアップや研究機関からすると、モノやサービスをつくっても、それを使ってもらったり買ってもらったりしないといけません。
「プログラム」では、トヨタやWbyTのアセットを使っていただけるので、実証したモノやサービスはトヨタにとっても連携できる魅力があります。
ただし、ウーブン・シティだからといって、無制限に実験できるということはない。安全安心、信頼、品質を維持するために守るべきルールはあるので、そこは注意が必要だ。
スタートアップの要望に応えつつ、安全安心のバランスを保つ。これは簡単なことではない。だが田中さんは「大事なところ」と言葉に力を込める。
「スタートアップにとって『面倒くさいこと』とするのではなく、世の中に出ていくときには、同じような品質が必要とされるので、WbyTがサポートやアドバイスさせていただく。世の中に出していくための基準とかプライオリティを示していくという価値になるかなと思っています」
世界を変えていくタッグ
ウーブン・シティに集まるスタートアップらに「できるだけ幅広くわがままを言ってほしい」。そう語るのは、「プログラム」の責任者であり、インベンター向けの開発、サポート、サービスのマネジメントをする大槻将久さん。
トヨタから出向している大槻さん。以前は未来創生センター R-フロンティア部に在籍していた。WbyTで、特にスタートアップのサポートをどうやるか知るために、自らもハードウェア会社を設立。そこで得たノウハウも今回の「プログラム」に反映している。 先述した通り、今回の「プログラム」ではウーブン・シティに集まるデータや施設、e-Paletteといった車両など、さまざまなアセットを使えることが最大のメリット。
一方でウーブン・シティもまた、フェーズ1のオフィシャルローンチを迎えるところ。今後、こうしたアセットも含めてテストコースの機能を段階的に強化、拡大していく。
街全体がテストコースという世界でも類を見ない取り組みには、何が必要か、何が重要か、大槻さんたちにとっても手探りだ。
その際に、インベンターズの“わがまま”は重要な“参考意見”になる。
ウーブン・シティのアセットをフル活用してもらい、改善点を教えてもらう。「私たちがそれに対して対応できるかどうか、ケイパビリティ(能力、組織力)も試されていると思っています」という。
「アクセラレータープログラム」には、一般的にスタートアップの取り組みを「加速させる」、「後押しする」というニュアンスが含まれる。ただウーブン・シティの「プログラム」では、それ以上にスタートアップと伴走する、一緒に取り組む意識が強い。
大槻さん
一般的に「アクセラレーター」とは、スタートアップが頑張っていこうとするのをアクセラレーションするということ。私たちはタッグを組んで、「一緒に世界を変えていこう」という話なので、「(支援金や場所だけ提供して)いってらっしゃい」ではありません。
「プログラムや実証実験が終わったらそれまで」ではなく、ずっと一緒に走っていく仲間を見つけていこうということです。
スタートアップは「時間感覚とか、カルチャーが全然違う」と語る大槻さん。「その人たちと一緒に同じ目標に向かっていかなければいけない。私たちにも相当な覚悟をもって応募者の方々と向き合っていきたいと思います」と決意をのぞかせた。
ここで、冒頭紹介した特設ページの画像をもう一度ご覧いただきたい。
この「ウーブンシティ・チャレンジ」には、もう一つ「Hack the Mobility」という副題(というには主張が強いが)が付いている。
「Hack」という言葉、一般的にはコンピューターに不正侵入し、害をもたらす「ハッキング」のイメージがあるかもしれない。一方で、「ライフハック」のような、「工夫して改善する」意味もある。
この副題を考案したのも大槻さん。ネガティブなイメージもある言葉だが、「今回のプロジェクトに対する私たちの気概とか、心構えみたいなところを分かってくれるんじゃないかなと。モビリティをHackして、世の中に新しい価値を生み出す人たちを集めたい」と込めた想いを語る。
「未来の当たり前を発明する」。これはウーブン・シティが掲げるミッションでもある。
ウーブン・シティのプロジェクト全体のリーダーであるWbyTの豊田大輔Senior Vice Presidentも、インベンターズがこの街を使い尽くし、既成概念を壊す発想が出てくることを期待しているという。
「プログラム」で募集するテーマは4つ*あり、3つ目まではWbyTが提示したものになっている。だが、4つ目は「自由応募枠」。ここには「(豊田Senior Vice Presidentから)『我々が想像している“こんな世界”ということだけにこだわらない方がいい』というアドバイスもあった」と田中さんは振り返った。
*「プログラム」で募集するテーマ。
1.多様な都市データをモビリティ・ビル・店舗・物流・ロボット・インフラなどと連動させるモビリティや都市サービスの実現を目指す「モビリティ&都市のサービスの最適化」。
2.誰もが安全に楽しく移動できる街をつくる「安全で安心なモビリティ&都市」。
3.持続可能な地球と暮らしを実現する。そして、未来世代から「ありがとう」と言われる社会をつくる「サステナブルな地球と暮らし」。
4.1〜3にとどまらず「幸せの量産」を実現するために、あらゆる可能性を探索する「自由応募枠」。では、スタートアップはウーブン・シティをどのように見ているのだろうか。
説明会に約40の企業・個人
9月、名古屋で「プログラム」についての説明会が開かれた。終了後、参加者に感想を聞くと、こんな声が。
「ウーブン・シティの詳細がイメージできた。すごくワクワクする。今まで試す場所がなかったが、この街で実証できるなら価値を具体的に示せそう」
「テストコースとして間違いなく良いロケーション。我々にも良いイノベーションを起こせるんじゃないかという視点で話を聞いた」
「衣食住が集約されるので、幅広いシーンで実証と結び付けていけそう。トヨタのアセットを使っていくことも考えていきたい」
「採択されれば、(WbyTとも)切磋琢磨して、共創できるというのは楽しみ。一緒に実証できるということが、すでに価値がある」壇上で説明した大槻さんは「(インベンターズには)街を最大限活用してもらって製品やサービスをより早く、良い形で世の中に出していただく。私たちも、要望に応えられるようにサポートやサービスを拡充していきます」と呼び掛けていた。
イベントには約40の企業・個人が参加。質疑では多くの手が上がり、関心の高さがうかがえた。
世界を変える挑戦
多くのスタートアップから注目を集める「Toyota Woven City Challenge ― Hack the Mobility ―」。特設ページの言葉を借りれば、「世界を変える挑戦」がスタートした。
田中さん
私の周りにもスタートアップの経営者がたくさんいるんですが、本当に自分や家族の時間を削って仕事に充てています。資金も自分だけでなく、友人、家族からも集めていたり、いろいろなものを背負っています。普通の社会人とは少し違う世界に生きているなと思うと、彼ら彼女らの覚悟に応えられるのかという想いはあります。
一方で、その覚悟に応えなければと思い過ぎると、サービスを提供する側になってしまう。お客さんとサービス提供者の関係になるのは違うなと思っています。
あくまで目指す未来や世界を一緒につくる関係。持っているものが違うだけで、スタートアップには尖ったアイデアや技術、私たちには街やデータがあります。お互いに持ち寄って、一緒につくっていく関係。
フラットな立場で、お互いが持っているものを持ち寄って、未来をつくっていく関係でいたいという気持ちがあります。
大槻さん
トヨタが目指すモビリティカンパニーの「モビリティ」は、ものすごく広く定義されると思います。どういったモビリティが世の中にあると、みんなが幸せになるかということは、誰も分からないんです。何が正解か分からないので、確実に正解を出すには数を増やすしかありません。
10個つくって1個、100個つくって1個正解があるのだとしたら、私たちだけがチャレンジするのではなく、トヨタだけでもなく、いろいろな人たちが一緒にチャレンジする。
そうすることで、その中から「これがみんな欲しがっていたものだ」「これが次のモビリティ社会のコアとなるものだ」みたいなことを見つけられるのではないでしょうか。
この仕組みが高速に回ることで、私たちのパーパスである「幸せの量産」に、そしてよりよい明日にみんなで近づけると思っています。
「Kakezan Invention Hub」。インベンターズの製品やサービスを、住民やビジターに触ってもらい、そのフィードバックを開発に活かしていく場所。インベンター同士での意見交換も行われる。ここからどのような新しい価値が創造されるのか。 説明会は10月初旬まで行われ、応募締め切りは同14日。概要については、下記〈関連リンク〉から特設ページへ。