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トヨタの技術者が挑む笑顔の量産!FUNVE (ファンビー) の大冒険
「いつも遊んでいたあのカートゲームのような、楽しい乗り物をつくりたい」
そんな夢のような企てから、トヨタの技術者が本気で開発に挑んだライド型アトラクションがある。その名は「FUNVE(ファンビー)」。
家庭用ゲーム機で遊び育ったメンバーが、子どもたちの笑顔のために本気で挑んだ画期的な体験型モビリティ。それは、遊び心と技術、そして情熱が詰まったモビリティだ。
リアルとバーチャルが連動する、モビリティプラットフォーム
FUNVEに乗り込みARグラスを装着すると、バーチャル空間でモビリティをリアルに操作できる。敵にやられたりコースアウトするとその場でスピン。バーチャルとリアルが連動するスリリングな展開は、まさに新感覚。スライドするように真横に動く感覚も新鮮だ。
2024年2月当時のスペシャルコラボ動画
新事業企画部 事業開発室グループ長 安井勇
カートゲームの中では、スピンやドリフトもできる。それを子どもが安全かつ簡単に体験できるようにするには、メカナムホイールを使おうとなりました。
また、当初はハンドルとアクセルでの操作でしたが、小学校低学年の子たちにとっては情報量が多すぎて直感的に運転できなかったんです。その解決方法としてジョイスティックを採用しました。
写真左 45°傾いた樽型のローラーで覆われた車輪(メカナムホイール)。前進・後退はもちろん、旋回や左右への並行移動もできる 写真右 2本のジョイスティックにより直感的な操作ができる
カート本体の動力源は電気で、シンプルなEV(電気自動車)だ。
トヨタ技術会から生まれた挑戦
開発のきっかけは、トヨタ自動車の「トヨタ技術会 (通称:ト技会)*」。
*トヨタ自動車の技術者を中心に構成する有志団体。クルマづくりを研究する会として1947年にスタートし、現在は技術・技能の向上と発展を目指すだけでなく地域の社会貢献活動もおこなう。会員数は約2.4万人。
会員の中から毎年24~25人が企画運営メンバーとして選ばれ、一年間限定で活動に専念する。選出メンバーはいくつかのグループに分けられ、その中のひとつにFUNVEを生んだ「モノづくり挑戦チーム」がある。
チームは企画からモノづくりまで担い、過去にはバスケットロボット「CUE」(2017年)、「トヨタミライドン」(2023年)などが発表されている。2020年、生産設備の開発をしていた安井 勇、エンジンやトランスミッションの開発に使う計測技術や解析技術を開発していた林 二郎、、評価に必要な試作車製作の企画・生産準備を行っていた大久保 博昭が「モノづくり挑戦企画」のメンバーとして集まった。
彼らはみな子育て世代であり、スーパーファミコン世代でもあったため、自然と「あの有名カートゲームみたいなものをつくりたい」という想いが芽生えたという。
安井
私たちはこれまでの系譜である新しい技術に挑戦することよりも、体験づくりを優先しました。何かすごいものを「発表して終わり」ではない体験型のコンテンツ。そこから、子どもたちが楽しめる乗り物という発想になったんです。
開発期間は一年しかありません。しかし、体験を提供するにあたって一度はユーザーの声を聞かないといけない。そこで、モノづくりのサイクルを2周回すスケジュールを立てました。
ハンドルとアクセルでの操作からジョイスティックに変更したのも、途中でユーザーの意見を聞いたからこそ生まれたものだ。
新事業企画部 事業開発室主任 大久保博昭
通常、量産車の開発は企画から販売まで数年単位でかかりますが、FUNVEは子供たちの声を聞くためにも3か月で開発・試作・評価のサイクルを回すという短期開発をしなければならず、いくら小さなモビリティとは言え期間内にやりきれるのか不安でした。毎日が挑戦でしたね。
新事業企画部 事業開発室主任 林二郎
ゲームに関しては、有名カートゲームがコンセプトだったので何かしら映像とリンクさせることは決めていました。当初はプロジェクターを搭載したドローンを飛ばして、投影された映像を追いかけるアイデアもありました。
最終的にARグラスを活用する方法になりましたが、ゲーム開発をしたことも、ARグラスのアプリをつくったこともないため、まずは本を買って勉強したんです(笑)。
開発環境を整えるまでに2週間くらいかかりました。動物を捕まえるゲームを企画し、自分たちで下手なイラストを描き、3Dモデリングにも挑戦しました。このように、まずは自分たちで試行錯誤し、足りない部分は社内の専門家に助けてもらいながらも、何とか自分たちの力でやり遂げました。
お子さまから大人まで、体験いただいた方々の評判がすごく良くて。皆さん笑顔になっていただけたのが、やみつきになってしまいました。
従業員のお子さんを招いた体験会では、安井らは2種類のオリジナルゲームをお披露目した。一つは動物を捕まえて悪者であるハンターから守る「アニマルレンジャー」。もう一つはタイムを競うレースゲームの「ワールドレーサー」というもの。その約3年後には、パックマンとコラボしたコンテンツも発表されている。
子どもたちの笑顔が導いた 事業化の夢
通常、1年の任期で活動は終了となる。しかし、FUNVEのメンバーはその後も有志活動を続け事業化を目指した。
大久保
普段、自分たちの仕事は細分化されていて、商品企画から開発・製造・サービスまで一貫して携わることはありません。ですが、いつか商品を最初から最後まで一貫して担当してみたいと思っていました。そのため、体験型のモノづくりを目指した企画段階で、すでに事業化を目標にしていました。
安井
子どもたちの笑顔を目標にしていましたが、従業員のお子さんを招いてのお披露目会で製品を体験してもらい、手ごたえを感じたんです。次はその笑顔を量産していこう。そのためには事業化するべきだという想いが強くなっていきました。
10月以降も社内プレゼンを重ね、最終的に当時の副社長まで辿り着いた。そこでトヨタの販売店を紹介してもらい実証実験を重ねた。
開発を続けながら、週末は販売店巡り。安井は通常業務50%での兼務、林や大久保は10~20%と少ない時間での兼務。熱心に売り込みを続けるなか、バンダイナムコが興味を示してくれた。2022年には、「VS PARK イオンレイクタウンmori店」で初の実証実験をおこない、2023年には「ジャパンモビリティショー」にも出展した。
VS PARKとは、テレビのバラエティ番組のような体験ができる屋内アクティビティ施設。同施設のブランド管理をおこなっているバンダイナムコ エクスペリエンスの桒澤 杏柚美さんは、偶然にも当時大学生のアルバイトとして勤務していた。
株式会社バンダイナムコ エクスペリエンス CXパーク事業ディビジョン
アクティビティ事業部 ブランドマネジメント課 桒澤 杏柚美さん
横に動いたり回ったり、クルマでは考えられない動きができるのが楽しいと感じました。また、仮想空間とリアルが共存する世界がすごく新しかったです。ただ、ARグラスの装着やスタートボタンがどこにあるかわかりづらいなど、オペレーションの難点はありました。
デパート屋上のパンダカーや遊園地のゴーカートなど、子どもが動かせる乗り物はかつて大人気アトラクションだった。しかし、娯楽の多様性や少子化、さらには安全意識への高まりによって現在は減少傾向にある。その一方、「子どもが自分で動かせる乗り物の潜在的な需要は今もある」と桒澤さんは語る。
FUNVE体験中のようす(VS PARK 横浜ワールドポーターズ店にて)
この夏、VS PARK 横浜ワールドポーターズ店の目玉は「FUNVE」!
VS PARK 横浜ワールドポーターズ店では、2024年12月に期間限定でFUNVEを導入。効率的なオペレーションを目指し、ARグラスを使用せずに遊べるよう改良した。
今回の取材ではVS PARK横浜ワールドポーターズ店様にご協力いただいた。
林
VS PARKさんでは、プレイヤーだけでなく周りで見ている友人や家族も一緒に盛り上がれるコンテンツが求められます。その解決策として、大きなモニターを設置してプレイヤーが見ている映像を映し出したりもしましたが物足りない。そこで、ARグラスがなくても皆で盛り上がれるアトラクションを考えました。
ヘッドライトを装備したフロントパーツを、ブルドーザーのようなデザインに変更。アトラクションも新たに2種類開発した。
一つは、自陣内にあるボールを相手陣地に押し込み、最終的に自陣内のボールが少ない人が勝ちという「BOMB! BOMB! ブルドーザー」。もう一つは、ヘルメットのお盆に大きめのボール1個を載せ、足元のお盆には小さなボールを5個載せた状態で、ボールを落とさないように障害物を避けながらゴールを目指す「プル²スラロ~ム」だ。
「プル²スラロ~ム」プレイ中のようす
写真左「BOMB! BOMB! ブルドーザー」 写真右「プル²スラロ~ム」
こちらのアトラクションは現在、VS PARK 横浜ワールドポーターズ店の夏休みの目玉企画として導入(2025年7月5日~)されている。いまは横浜店限定だが、「ぜひこの夏、多くの方にVS PARKでFUNVEを体験していただきたい」とバンダイナムコ エクスペリエンスの桒澤さんも意気込んでいた。
大久保
VS PARKさんへの長期導入が、製品開発でのターニングポイントになりました。これまでは短期の実証実験ばかりでしたが、今回は初の長期導入。品質、原価、性能なども自ずと期待値が高くなるため、お客様の声に応えるべく日々奔走しています。
累計で1万人以上のお客様に体験してもらい、ご意見をいただきながら、多くの改善を実施しました。
例えば、モビリティの後ろへ手すりを追加して、スタッフさんのカート移動作業をラクにしたり、制御ECUや接続不良があった配線を改良したり。
それでも、まだまだお客様の期待に応えきれてはおらず、改めて製品を世の中へお届けすることのハードルの高さを痛感しています。
林
ここでは「SNSで発信したくなる見栄え」と「遊んでいる様子が面白いこと」のふたつが重要であることが分かりました。どちらもトヨタの通常業務にはないエンタメならではの期待値で手探り状態でしたが、バンダイナムコさんにご協力いただき、試行錯誤を重ね、なんとかお客様の期待値を満たすゲームを完成させました。
例えば「BOMB! BOMB! ブルドーザー」では以前、見栄えのために小さいカラーボールを約1000個配置していましたが、これがカート破損の原因となり、運営スタッフの負担にもなっていました。そのため、ボールを巨大ビーチボールへ変更することで、「見栄え」を良くし、「遊んでいる様子」をより面白くすることができました。
プレイしている人も周りで見ている人も「ワー!キャー!」と楽しんでいる姿を見て、確かな手ごたえを感じました。
株式会社バンダイナムコアミューズメント VS PARK 横浜ワールドポーターズ店
ストアマネージャー 出口明日香さん
小学生にとって、自分で操縦できる乗り物は魅力的です。また、FUNVEは見栄えが良いので学生や若者にとってもワイワイ応援できる。また、テクニックの差が生まれにくいので、親子対決で親が手加減をする必要がないのも魅力です。
私たちが楽しくなければ楽しいものはできない
VS PARKでの本格導入など、事業化が加速した理由にはBE creationのSEED期に編入(2024年4月~)したことも大きい。これにより、安井、林、大久保は新事業企画部に異動となり、FUNVEに専念できるようになったという。
安井
BE creation(トヨタの新事業創出スキーム)の審査会を通過するのは大変ですが、裁量が大きいのが一番の魅力です。
林
会社の新事業として認識されるので、他部署に協力を仰ぐときも説明がしやすくなりました。
大久保
異動してから、仕事の裁量が増え自由度は上がりました。事業性を確保できなければ明日企画が凍結するかもしれないというプレッシャーを抱えながらも、やりたいことに従事できる幸せをかみしめつつ、自分の専門性や業務範囲などを越えた活動に奔走しています。
何かを成し遂げるための手段は自分たちで考える必要があり、組織づくりも求められます。そのため、開発の傍ら社内外で仲間づくりの営業活動を続けており、少しずつメンバーも増やしているところです。まだまだ仲間が足りていないので、ご興味がある方がいればぜひ!
最後に、FUNVEが目指しているビジョンを聞いた。
安井
販売店でイベントをやるとファミリーの来店が増え、子どもを中心に楽しい雰囲気が生まれるんです。そこを拡大していけば、これまでアプローチできなかった子どもや若者との接点が生まれ、“トヨタってなんかいいよね”という空気が広がっていく。
将来的にトヨタが提供するサービスや商品に関心を持ってもらえる、ファンになってもらえるようになることが将来のビジョンです。
現在、これまで寄せられたさまざまな意見に応えるべくフルモデルチェンジに取り組んでいる。車両においては、現在と同じ部品はほぼないほど変更されるとか。並行してARグラスを活用した新たなゲームの開発も進んでいる。
アミューズメントやエンターテイメントとは無縁の世界だった技術者が、FUNVEに取り組んで早5年。バンダイナムコとの出会いなど、新しい世界を見たことで徐々に仕事への意識にも変化が生まれている。
大久保
年初に開発メンバーでキックオフミーティングをしたのですが、その資料の1ページ目に “ワクワクしながら開発しましょう”と書いたんです。これまで愚直に仕事をしてきた自分からは想像もできない言葉です(笑)。でも、私たちが楽しくなければ楽しいものはできない。そういったマインドは従来のクルマづくりにも生かせると思います。
クルマ開発をおこなう作業場の片隅で、視線を感じワーキャー盛り上がりながら開発が続けられているFUNVE。笑顔が原動力となってきたこのFUNVEを使い、いつか世界大会が開かれる日がくるかもしれない。
新事業企画部 事業化2G FUNVE開発メンバー
安井勇、大久保博昭、林二郎、水上直樹、萩野智史、甲原珠々奈、石田誠士
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