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開発進む知能化、電動化技術 トヨタの成長の展望は?

2025年の株主総会では、宮崎洋一、中嶋裕樹 両副社長が株主からの質問に答える中で、知能化や電動化技術についても言及。今回は、そんな2つのシーンを紹介する。
株価を軸とした今後の戦略は?
1つ目は株価も含めたトヨタの将来戦略について質問された場面。佐藤恒治社長は、地域軸を任されている宮崎副社長、商品軸を担当する中嶋副社長にマイクを向けた。
宮崎副社長は、5月に公表した決算内容に触れつつ回答した。
2025年3月期決算で、トヨタは営業利益4.8兆円を計上。仕入先・販売店も含む「人への投資」と、バッテリーEV(BEV)や水素、ソフトウェアなど「成長領域への投資」に7,000億円を投じるなど、期首見通し4.3兆円としていた中で、5,000億円を積み上げた。
プラス要因に価格改定やインセンティブ抑制があったことは、以前トヨタイムズでも報じた通り。
こうした実績を説明したうえで、宮崎副社長は「仕入れ先の皆さま、販売店の皆さまのご尽力による原価低減、営業面での取り組みにより、プラスで稼げたのが大変大きい」と分析。「一方で…」と続けた。
宮崎副社長

一方で、新たな財務基盤の柱として如実になってきているのがバリューチェーンでの収益です。
新車をつくってお届けするだけではなく、グローバルで1.5億台の保有がある既存のお客様とのお付き合いをより長く、太くすることにより、バリューチェーン収益を今日まで、徐々に徐々に、地道にですが積み上げてきております。
近年では、年間でおよそ1,500億円プラスの収益貢献ができるようになっています。今期で言えば、バリューチェーン収益を2兆円台まで伸ばすことができてきています。
ご案内の通り我々は、電動化、知能化等々、新たなクルマづくりを続けており、先日発表したRAV4には「Arene」を搭載し、Software Defined Vehicle(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)*という形で、新しいバリューチェーン領域の可能性も広げることができていると思っております。
*ソフトウェアの更新で機能をアップデートすることを前提に設計・開発されたクルマ。
こうした取り組みを通じ、トヨタが新たにモビリティカンパニーに変わっていけるという実感を、株主の皆さま、投資家の皆さまに感じていただければ、株価も上がっていくと信じて進めております。
ウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)が手掛ける「Arene」は、安全・安心かつ高品質なソフトウェアを効率的に開発するためのプラットフォーム。新型RAV4には、最新のTSS(Toyota Safety Sense、トヨタの予防安全パッケージ)を搭載しているが、この開発やデータ収集にもAreneが活用されている。
5月のRAV4ワールドプレミアでは、ここからSDV開発を本格化していくと説明があり、豊田章男会長の言葉を引用する形で「トヨタのSDVの一番の目的は交通事故をゼロにすること」とあった。

中嶋副社長は宮崎副社長の株主への回答に補足する形で、ソフトウェアがクルマの価値向上に寄与するとし、自動車業界に限らず連携を深めていく意義を強調した。
中嶋副社長
クルマ単体ではなく、人、インフラを加えた三位一体でさまざまな協調をしていくことで価値が上がる。より安全性が上がると考えております。
途切れない通信のためにNTTさん、通信衛星を打ち上げるロケットの会社さまともお付き合いをしております。
人工知能を活用することでドライバーの次の行動を予測し、より安全性を高めることも可能だといわれています。
少し上から目線かもしれませんが、自動車がさまざまな産業を牽引していきながら、もっといいクルマづくり、より良い社会づくりに貢献できると信じております。
全固体電池の状況は?
2つ目は全固体電池の開発状況を問われた場面。
テクニカルワークショップでも紹介された全固体電池。電解質が固体で、正極と負極間をイオンが素早く移動できるという特徴があり、BEVの充電時間の短縮、長い航続距離、高出力という強みがある。


全固体に限らず、トヨタでは近年電池開発において、さまざまな取り組みが進められている。
米国では、トヨタとして海外初となる電池製造拠点・TBMNC(Toyota Battery Manufacturing, North Carolina)が稼働開始。HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV向けの電池を生産する。
仲間づくりでは、出光興産との協業やプライムアースEVエナジーの完全子会社化(トヨタバッテリーへと社名変更)が発表された。
こうした状況の中、株主から寄せられた全固体電池に対する質問。中嶋副社長は、マルチパスウェイ戦略の説明から回答を始めた。
中嶋副社長

全固体電池の前に、トヨタが取り組んでおりますマルチパスウェイの戦略について少しお話させていただきたいと思います。
言うまでもありませんが、各国・各地域のエネルギー事情に応じて最適なクルマをお届けするということで、エンジン車はもちろんのこと、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車、最近は水素自体を燃料とする水素エンジン車やFCEV(燃料電池車)にも取り組んでおります。
保有台数についても、たくさんのクルマを世界中でお乗りいただいております。カーボンニュートラル燃料という、CO2を排出せずにつくった燃料も提供していこうと取り組んでいます。
全固体電池も重要な一要素で、我々が認識しているBEVの課題は、充電時間や航続距離の問題などです。
全固体電池は、このBEVの問題を一気に解決しようということで開発が進められております。充電時間が非常に短く、出力が高いため、航続距離も長い。さらに、非常に耐久性もいい。ということで実は、全固体電池がラインオフするタイミングで始まるプロジェクトもあります。
このプロジェクトは、全固体電池ができなければ台無しになってしまう。開発をしている中で間に合うのか、というご質問だったと思いますが、開発はいつも先が見えません。うまくいくかどうか、正直わかりません。
私はいつも、会長の豊田から「失敗してもいいじゃないか」と激励されます。失敗したからこそ経験が残る。若い開発者がそういう経験をすることで、また新しい開発にチャレンジしてくれる。そうなればいいと思っています。
ただ個人的には、お約束した日程を守り、全固体電池を次の未来を切り開く大きな要素としてお届けできればと思っています。
2025年の株主総会は全13問の質問が寄せられ、これが最後の質問だった。
それまで質問した株主の方を真っ直ぐ見つめて答えていた中嶋副社長は、ここで議場全体を見渡し、さらに続けた。
「株主さまから一つひとつの応援の言葉を、今日たくさんいただきました。その言葉を我々開発陣、ここにいる(執行)メンバーも心に刻み、次に向けて大きな一歩を踏み出す勇気をいただけました。本当にありがとうございました」
中嶋副社長が話し終えた後、マイクを握ったのは豊田会長。トヨタの脱炭素への挑戦に対する想いを語った。その様子については、後日トヨタイムズに掲載する。