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合言葉は「Weavers Are the Heart of Woven City」 住民受入の準備着々

2025.08.05

「Weaving the Future(未来を紡ぐ)」と書かれたのれんをくぐると、芝生にクッション、机の上にはお菓子。

スクリーンに投影されるのは、ウーブン・シティの映像。芝生に座る人たちはリラックスした表情で手元の資料にメモを残していく。

ピクニックのような、会議のような、何とも不思議な光景だが、実はこれ、5月に実施したウーブン・シティ(静岡県裾野市)の住民候補に向けた説明会の一幕。

今回、街の周辺で働くトヨタ関係者向けの住民募集説明会で会場となったのは、ウーブン・シティの向かいにあるトヨタ自動車東日本の富士裾野テクニカルセンター(2025年7月1日付けで「東富士総合センター」から名称変更)。

“説明会”と聞くと会議室に長机をイメージする読者もいるかもしれない。事実この会場も、普段は以下の感じ。

ウーブン・シティ関わる人たちの取り組みや想いを紹介してきた本連載。今回は、この一風変わった説明会も含めて、住民候補の応募から入居、そして退去にいたるまで、さまざまな場面で汗を流すウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)のメンバーに話を聞いた。

Heart of Woven City


ウーブン・シティでは、この街で暮らす人たちや訪問者を“Weavers(ウィーバーズ)”と呼ぶ。6月の取材時は、今秋のオフィシャルローンチに向けて、住民としてのウィーバーズの受け入れ準備が進んでいた。*
*訪問者としてのウィーバーズ受け入れは、2026年度以降を予定している。

ウーブン・シティの入居は、「『幸せの量産』を目指す実証実験の街」という理念を理解し、共感したうえで、本人の希望や、WbyTから提供できる間取り、実証の内容などさまざまな要素の掛け合わせで決まる。

WbyTが大切にしている合言葉は、「Weavers Are the Heart of Woven City(ウィーバーズはウーブン・シティに欠かせない存在)」。

ウィーバーズ(住民)募集HPや、今回の説明会を企画、運営してきた楠理紗子さんは、この言葉に込めた想いを次のように説明する。

楠さん

「発明したいものがあるインベンター(発明家)がいても、ウィーバーズがいないとできないんです。ウィーバーズがいないと成り立たない、それぐらい大事な存在なんです」という想いは、一番初めの応募のタイミングから、説明会やそれ以降の場でもずっと変えずにお伝えするようにしています。

これは(住民募集の)初めから最後まで一貫してメッセージングしています。

「実証実験の街」と聞くと、どうしてもインベンターや、発明の内容に目が行きそうになるが、実生活を通じてリアルなフィードバックを得られるのがこの街の特徴。

だからこそウィーバーズもインベンターも、等しく欠かすことができない存在と考えている。

こうしたメッセージは、トヨタ関係者にも、将来入居する一般の方にも同じように丁寧に説明していくという。

 

アイデアの種はすぐ側に


インベンターと同じく大切な存在であるウィーバーズ。冒頭紹介した説明会では、そんなウィーバーズ候補の参加者が、ウーブン・シティの理念を理解し、街での生活や実証実験への参加をイメージしやすくなるように工夫されている。

何と言っても目を引くのは一面に敷かれた芝生。このアイデアには元ネタがある。

「堅苦しくしたくない」「ウーブン・シティの中にはまだ入れないけれど、街の雰囲気を少しでも感じてほしい」――。

WbyTとしても今回が初めての説明会。伝えるべきことは決まっていたが、どう伝えるのが良いかということはポイントの一つだった。

特に注目したのは“世帯”。今回の説明会参加者には単身者もいれば、夫婦、子ども連れの家族もいる。住民候補に手を挙げた人は、街のことを知っていたり、熱意も高いかもしれない。だが、一緒に引っ越してくることになるパートナーや子どもたちも取り残すことなく、興味を持ってもらうためにはどうするか? 今後、一般の方の募集につなげていくためにも、楠さんをはじめ、WbyTのメンバーはさまざまな意見を出し合った。

そこで昨秋目を付けたのが、メンバー自身が働く東京・日本橋のオフィス。ここの一画にはこのようなエリアが設けられている。

もちろんオフィスには会議室もあって、そこでは大事なミーティングが行われている。一方で、こうした芝生の上で足を伸ばして、ざっくばらんに話し合うこともあるという。

「あまり堅苦しい仕事の場じゃなく、思っていることも全部相談できる、部署の壁を越えて一緒に解決できるカルチャーというか雰囲気だったりします。きっとウーブン・シティがオフィシャルローンチしても、そういったフレンドリーな雰囲気は変わらずにあるだろうなと。その雰囲気を会場でも感じてもらえるのではないかと思いました」と楠さんは語る。

当初は長机に椅子を並べる案もあった。だが、芝生の上なら、参加者同士の距離も近くなって、リラックスして話を聞いてもらえるのではないか。すぐに会場のイメージラフが描かれ、準備が進んだ。

会場では、写真左下にあるようなキッズスペースも用意。参加者からは「リラックスして、話が入りやすかった」といった声も。

芝生と道路がある説明会


説明会では、会場を二分する形でウーブン・シティを知ってもらうための体験会も同時に開催していた。そちらの様子も紹介したい。

参加者は、前回の記事でも紹介した、ウーブン・シティのウェルカムセンターにある入場ゲートの模型をくぐって体験会場へ。説明会会場が芝生なら、こちらはモビリティのテストコースらしく、動線が道路になぞらえて表示されていた。

体験会の入り口。入場ゲートの模型をくぐった先、足元には道路になぞらえたシートで動線が示されている。

体験会場で参加者は、ウーブン・シティでの生活や周辺環境をパネルで説明していたり、VRで街を散策したりできる。

ロボットとのすれ違い体験では、ウーブン・シティの住居エリアを移動する搬送ロボットが、人を検知して自動で回避。この通路は、住居の共用廊下とほぼ同じ道幅が採用されている。

すれ違い体験後は、スタッフが感想をヒアリング。実証への参加やフィードバックがどのような形で行われるのか、こうした体験を通じて参加者にその一端を感じてもらっていた。

ちなみにトヨタイムズでも参加者に話を聞いてみると「ロボットがこちらに気付いているか分かった方が(何かサインがあった方が)安心できる」、「子どもだけでも避けてくれるのか気になる」といった感想があった。こちらは今後の進化に期待したい。

成田篤さんは、UX(ユーザーエクスペリエンス)と呼ばれる、体験設計を担当するチームの一員。こうした説明会や体験会などを、楠さんたちのチームとも連携しながら形にしている。2つの会に込めた想いをこのように話してくれた。

成田さん

我々のようなウーブン・シティで働く人と、ウィーバーズと、インベンターとどういう関係をつくりたいか? ということを(みんなで)話していて、「ウィーバーズはお客さまとして受け入れる存在ではなく、同じウーブン・シティで未来のモビリティをつくっていく仲間」という関係でありたいということが根底にあります。

オフィスの空気感を取り込んだ説明会や、体験会の雰囲気も、なるべく(私たちが)上から伝える、(参加者は)受け止めるではなく、対等な仲間として受け入れてもらえるような関係をつくっていく。それで笑顔で皆さん帰られていたので、本当にうれしかった。

「ウィーバーズはお客さまとして受け入れる側ではなく、同じウーブン・シティで未来のモビリティをつくっていく仲間」――。この想いは、説明会や体験会を設計するチームだけでなく、ウーブン・シティでの受け入れ準備を進めるチームにも共有されている。

 

ウィーバーズの相棒に


ここまで住民候補に向けた説明会や体験会がどのようにつくられてきたのか見てきたが、今秋入居が決まったウィーバーズが、初日をスムーズに迎えられるように備えるチームもある。

このチームは2月以降、何度もウーブン・シティでリハーサルを実施。ウィーバーズを居室まで連れていくルート、駐車場への案内、引っ越し業者の動線など確認すべきことは多岐にわたる。

企画段階では上手くいっていたはずのことも、現場に出てみるとスムーズにいかない。表情が硬く、ウィーバーズがワクワクしないのではと指摘されたこともあった。

5月からはWbyTの従業員とその家族が、実際に1週間程度生活する「実生活テスト」もスタート。これまで100人弱が参加し、住民と運営両方の視点で改善点を洗い出している。

「実生活テスト」の様子

受入準備を進めるチームの一員である岩田庄平さんは、こうした現地でのテストを繰り返す中で、相手の困りごとに対して機械的に対応するのではなく、「YOUの視点」で当たることの大切さを感じている。

岩田さん

(相手が求めている)根本的な部分を考えると「そうそう。本当はこうしてほしかったんだよ」と言っていただけることがありました。

住民の皆さまの、ある意味バディー(相棒)的な役割になれたら、すごく嬉しいなと思います。

住民にとっては初めて来る街です。実証実験をやっている街ですが、まずは実証実験とあまり関係のないところから、生活の悩みや不安を何でも相談してもらえる関係を築く。心配事を解消できれば、実証にもどんどん参加してもらえます。そうなればテストコースの街としてのウーブン・シティの価値を実感してもらえると思います。

(実生活テストなどを通じて)真摯に向き合えば、ちゃんと心を開いてくれて、本音を話してくれる関係を築けるんだなっていうのは感じています。

岩田さんや成田さんのチームは、ウィーバーズが生活を始めた後、ウーブン・シティ内にある「ウィーバーズ・センター」の企画、運営も任されている。

ウーブン・シティの“公民館”


「実証実験にはどうやって参加すればいいの?」「どうやったら貢献できるのかな?」――。

「ウィーバーズ・センター」は、そんな住民らの不安の声を聞いたり、ウーブン・シティで安心して生活できるようサポートしたりする機能を持つ施設だ。

企画中の「ウィーバーズ・センター」のイメージ。

ここでは、困りごとがあればもちろん応えるが、ウィーバーズらがちょっと休憩したり談笑したり、時には子どもたちが宿題をしたり。気軽に交流できる“公民館”のような場所として活用してもらう。

楠さんが語っていたように、ウィーバーズはウーブン・シティに欠かすことのできない大切な存在。そんなウィーバーズが実証実験に進んで参加できるように、一歩目を後押しする場となることが期待されている。

ウィーバーズ・センターには、問い合わせや相談を受けるサポートデスクに加え、交流のきっかけとなるような情報掲示板なども設置される予定。

また、本記事の冒頭で楠さんや成田さん、岩田さんたちのチームを「応募から入居、そして退去にいたるまで、準備に汗を流している」と紹介したが、退去後もアルムナイ(卒業生、OB・OG)として街とのつながりをもってもらうことも、今後検討していく予定だそうだ。

いよいよ住民という“街の命”が吹き込まれようとしているウーブン・シティ。「どんな街になってほしいですか?」と問うと、成田さんはほほ笑みながら答えてくれた。

成田さん
ウィーバーズもインベンターも、ウーブン・シティが自分たちの場所だと思って、積極的に住みやすいように変えていってくれたら最高だなと思っています。

ウィーバーズとインベンターでどんどんモビリティをつくっていくんだという空気感ができれば、最高の共創の関係ができるんじゃないかなと。

自分たちの街だと思っていただけるような場所になれば嬉しいです。

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